SPECIAL

エマ誕生日 ショートノベル

220845

「んー! いい天気!」
 真夏の日差しがハウスの屋根をきらめかせる。抜けるような真っ青な空の下、エマは兄弟達とともに庭に飛びだした。
「エマ!」
 名前を呼ばれ視線を下げると、幼い弟が立っていた。
「フィル、どうしたの?」
 身を屈め問い掛けたエマに、フィルは笑顔のまま、ぱっと駆けだした。
「こっち来て!」
「?」
 走っていくフィルの後を、エマは不思議そうに追っていく。フィルの姿は、ハウスの角を曲がって見えなくなった。
 ハウスの一隅には、ママが手入れをしている花壇がある。今は背の高いヒマワリの花が、数えきれないほど咲き誇っていた。フィルを追って角を曲がったエマの前には、その黄色の花だけが広がっていた。
「あれ? フィル?」
 居なくなったフィルを探していたその時、がさがさっとヒマワリが動いた。びっくりしてエマが視線を向けると、ヒマワリの影から、隠れていた兄弟達が一斉に飛び出してきた。
「エマ、お誕生日おめでとうー!!」
 フィルが持っていたヒマワリの花束を、エマに差し出す。
「わぁ! みんな、ありがとう!」
 エマは歓声を上げた。そして受け取った花束を高々と掲げ、親友二人に向かって叫ぶ。
「ノーマン、レイ! 私今日、誕生日だった!」
「あはは、そうだよ?」
「やっぱり忘れてんじゃねーか」
 嬉しそうな最年長の姉の顔を見て、ジェミマとアンナが笑い合う。
「良かったぁ、ママとお世話してたけど、間に合わないかと思ってたから」
「すごい綺麗に咲いたね! 花束にしちゃうのもったいないくらい!」
 エマは背伸びして、花壇に咲いたヒマワリに触れる。そんなエマにギルダが明かした。
「ふふ、ヒマワリの花壇でお祝いしようって、フィルのアイディアなのよ?」
「えっ、そうなの?」
 エマは小さな弟を振り返った。フィルは元気いっぱい頷いた。
「うん、エマってヒマワリみたいだもん」
「そうかな?」
「見てるとね、元気になる!」
 弟の言葉に、エマは満面の笑みになった。
「ありがと、フィル!」
「あーあ、来年もエマの誕生日、お祝いしたいなぁ」
 今年エマは11歳になった。ハウスにいられる期限は今年までだ。残念がるフィルに、エマはしゃがんで視線を合わせる。
「じゃあ私、来年の今日フィルに会いにくるよ!」
 思いがけないエマのセリフを聞き、弟は目を丸める。そばで聞いていた兄弟達もだ。
 呆れ顔で、レイが突っ込む。
「お前……どんだけ祝われたいんだよ」
「ええーいいでしょ? レイも来てよ! ノーマンも!」
「ふふ、うん。わかった」
 エマと兄弟達のやりとりを聞いて、ノーマンはおかしそうに笑う。今年が最後だと思っていたフィルは、また来年の楽しみができて、嬉しそうに飛び跳ねた。
「わぁ! じゃあ僕ね、またプレゼントいっぱい用意して」
 姉を見上げ、フィルは花咲くように笑った。
「待ってる!」

JUMP j BOOKS
『約束のネバーランド
~ノーマンからの手紙~』
発売中

ノーマンは決意の瞬間、何を想っていたのか――。
初小説版で暖かくも切ない「GFハウス編秘話」解禁!!

著者:原作/白井カイウ 作画/出水ぽすか 小説/七緒
判型:新書判
価格:定価:本体650円+税
発売日:絶賛発売中

JUMP j BOOKS
『約束のネバーランド
~ママたちの追想曲~』
発売中

エマたちの脱獄の前に立ち塞がった最大の壁、イザベラ、クローネ。
彼女たちの「“飼育監”へと至る知られざる過去」が解禁!!

著者:原作/白井カイウ 作画/出水ぽすか 小説/七緒
判型:新書判
価格:定価:本体680円+税
発売日:絶賛発売中

©白井カイウ・出水ぽすか・七緒/集英社

PAGE TOP