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pixiv ショートノベルコンテスト結果発表

『星を数える度に思い出してね』

「ドン、星ってなんであんなに遠いのに綺麗に見えるの?」
「星?」
昼下がりの図書室。ドンに普段は読めない難しい物語を読んでも貰っている。だけど、ご飯のあとに字まで食べるのは、瞼の扉を閉じて夢の世界に誘うみたいなものだ。 眠気を覚ますために、ドンとお喋りしようと挿絵の星空を指差した。
「うん……手に届かないくらい遠いの。はしご作っても取れないってママが前に言ってたの。」
「うーん?」
空に燦然と輝く星々は当たり前にあった。それをどうしてと聞かれてドンは、唸った。そこにあるものの理由を聞かれても、考えたことがなかったから答えようがなかった。
「むむむむむ」
「ドン、無理しないで」
「分かんねぇ!確かになんでだ?」
「あはは、分からないよね」
ドンにただ聞いてみたかっただけでもあった。首を痛めそうなほど曲げるので、やめておいた方が良かったかもと慌てた。
「ちょっと考えさせてくれ!」
「う、うん」
適当な事を言うんじゃなくて、ちゃんと考えてくれるんだと、嬉しくなった。私のために考えてくれる。
ぎゅっとリトルバーニーを抱きしめる。
心の中でちょっと得意げになって、そっとリトルバーニーに耳打ちする。ほらね、ドンだって優しくてかっこいいでしょって。
昨日、シェリーがノーマンが王子様みたいってうっとりしていたのだ。絵本の中に出てくる王子様みたいに、頭が良くて公平で、かっこいい。それを聞いて、ドンだって!と張り合ったのだ。ドンだってかっこいいよって。
シェリーはあんまりピンと来てくれなかったけど、わたしは絶対かっこいいと思う。王子様と言われれば、なんだか違う気がするけど。
「うーん」
ドンの真似してなんだろうと首を捻った。考えるって、真っ白いパズルのピースを探すみたいだ。





☆☆☆


「コニー」
夜になって、本物の星がきらきらと遠くで瞬いている。お風呂上がりに、ドンが手招きして私を呼んだ。タオルを広げて待っている前に座ると、髪を拭いてくれる。
「えーと、星の話なんだけどさぁ」
本当に考えてくれたのだと嬉しくなる。きっとどんな事でも真剣に考えてくれるドンだから聞きたかったのだ。
ドンは自分で考えたけれど正直、分からなかったと言った。
「ノーマンやレイに聞いてもちゃんと理解は出来なくてよ、しまいには二人で盛り上がって重力やら神話の話まで発展してさ、だからこれは俺の考え。聞いてくれるか?」
そんなの当たり前だと頷く。それが一番聞きたい話なんだから。
「あのな、星って俺達が思ってるよりもすごくすごく遠くにあるんだとよ。」
「どのくらい遠く?」
「太陽よりも月よりもすごくすごくすごくすごくすごーくだ!遠くにある星の命が燃えて、今この輝きを俺達が目にしているのってすごいことらしいぞ。」
タオルの隙間から見上げると、ドンは両手を大きく広げて教えてくれる。ハウスの中だけど、星空が広がってる気がした。
「わぁ……」
「すごく遠いから、星が死んじゃってもすぐにはここからは見えなくて、今見えてるのは遠く遠くの燃え尽きる前の光かもしれないんだ。」
「えーと、んー星が死んじゃっても、私達は生きてる光を見てるってこと?」
「そうだぜ!」
あんまり頭が良くないから、繰り返し聞いてもドンは肯定してくれる。
「そっかぁ、遠くても生きてるから綺麗なんだねぇ。じゃあこの星も遠くから見たら綺麗なのかなぁ」
「絶対綺麗だ、俺とコニーもハウスの皆もいっぱい笑って命を燃やしてるんだぜ?遠くまで届くくらい幸せに!」
わしゃわしゃと少し乱暴に頭を拭われる。ママがいつも優しく乾かしてくれるけど、ドンに頭を拭いてもらうのも好きだった。
そっか、生きてるから星は綺麗なんだと忘れないように繰り返す。あとでノートにも書いておこう。ドンが教えてくれたことだから、ちゃんと覚えておきたい。
でもドンはきっと聞いたらまた教えてくれるんだろうなと、少し思った。それって甘えてばっかりでダメかなって。
「あのね、ドン」
「ん?」
「ドンはどうしてそんなに優しくしてくれるの?」
「だってコニーは大事な家族だろ。」
あっさりと、当たり前に答えてくれるからくすぐったい。ドンは指を折って、何かを数える。
「俺はコニーよりもだいたい半分、長く生きてるから、読んだ本も、喧嘩した後の仲直りの仕方も、苦手なおかずの避け方も、コニーの半分だけ多く知ってる。だったら教えてあげるのが年上の役割ってことだ!」
「教えちゃってもいいの?簡単に知って、ずるじゃない?」
「ずるいわけない、コニーも次は教える側になるんだから。」
「そっかあ。」
「生きてるうちに星の数ほど知っていくことがあるんだぜ」
「えぇっ、それって何個?」
「え!?んーと、あとで数える。」
「朝が来ちゃうよ。」
「いや気合いでなんとか……でもどこまで数えたとか位置とか分かんなくなるかな……?」
「首痛めちゃいそう」
「コニーも一緒に数えようぜ、半分こしよう」
「数える!もし数え切れたら大発見になるかな?」
「きっとなる!自慢しようぜ!」
半分だけ、大人だけど、知らないことだってあるから。もっともっと大人になるために勉強するんだ。
私もドンと同じ年くらいになったら素敵なお姉さんになれてるかな。
その時は、きっともうハウスの外にいる。ドンには一番に、お姉さんになった私を見て欲しい。
ちょっと乱暴にしすぎたかなと、ドンは今度は包むように髪を拭き始めた。それが優しいから、少し寂しくなった。
永遠ってどのくらい長いかな、星を数え終わるくらいかな。たまに思う。皆と、ドンとずっと一緒にいれたらいいのにって。
「……。ドン、私が、星みたいにもしすごくすごく遠くにいても、呼んだら来てくれる?」
「もちろんだぜ、コニー。どこにでもいつでも駆けつけてやる!」
「ほんと?」
「あぁ、約束する。」
「ありがとう!」
ほら、ドンなら躊躇いなく約束してくれる。
絵本に出てくる王子様とはなんだか、やっぱり違うけど。ドンは誰よりも優しくって強くって、大好きなヒーローだった。
そう、ヒーロー。響きが何度だって嬉しくなる。私がハウスを出ていく日は近いけど、何も怖くない。
新しい家族に会えるのも楽しみで、ママみたいなお母さんになるという夢もある。それに、寂しいけれど、きっとどんな時でもドンが来てくれる気がするから、大丈夫。
私のヒーロー、世界一かっこいい。
にっこり笑うと、ドンも笑ってくれるから、きっと、きっと遠くでもこの星は輝いてる。



END

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